「ソルジャー、ちゃんと聞いてる?」
背を向けていたジョミーがブルーを振り返る。今日もまたいつものように長老たちへの文句をぶつけに来たのだ。
それももう日課となり、ベッドの枕もとの床には晩になると必ずジョミーが脚を抱えて座っていた。
だが、ブルーはそれをうっとおしいとは微塵も思わなかった。寧ろ、ストレスを抱え込まれてはそのうち歪みが生じるだろう。
それになにより、ブルーだけには真実の言葉を語るジョミーが愛おしくて仕方がなかった。
「ソルジャー?」
朝から頑張り通しだったのだろう。とろんと眠そうな目でジョミーは、ベッドに横たわったままのブルーに詰め寄った。まるで酒に酔っているかのような絡み方だと、ブルーは心中で笑う。
「聴いているよ、ジョミー」
「ほんとう?」
ああ、と答えるが言葉を聞きもせず、ジョミーの目は瞬きを繰り返した。振り返ったときに寄りかかったベッドの感触に誘われ、意識は今にも眠りへと落ちらんとしているのだろう。
「ジョミー、こんなところで眠ってはいけない」
若干強めに呼びかけてもジョミーの瞳は閉じていく。微かに顔が上下したが返事すら返ってはこない。
「ジョミー」
片手でジョミーの身体を揺する。
「寝ない、よ……。そるじゃーにもんく、いおうってがんばって、きた……のに」
やっと呂律の回る状態でそれだけを言い、ジョミーはそのままベッドへと顔を埋めてしまった。
じわりとブルーの胸が熱くなる。
忙しないばかりのジョミーの生活の中で、この「報告会」がどれだけの意味を持っているのかを計ったことなどなかった。
必要最低限のことだけをこなし、あとは身体を休めるばかりのブルーはこの時間をジョミーとの触れ合える大切な時間だと思っていた。
だが同様に、ジョミーもまたその生活の中でこのブルーとの時間を大切に思っていたのだ。
普段ならきっと口にもしないだろう。ジョミーは努力の爪痕を知られることを毛嫌いしている。
「疲れていたんだね」
緩い吐息を漏らすジョミーの髪を撫で、ブルーは、ありがとう、と呟きながらその金髪に口付けた。
「おいで、ジョミー」
ベッドの端に乗りかかったジョミーの腕を言葉と共に引き上げる。
「うう、ん」
するとまだ眠りが浅かったのか、声を漏らしながらジョミーは大人しくずるずると身体をベッドの上に上げた。
「いい子だ、今夜はここで眠るといいよ。ジョミー」
ずり上がるように片足を床に落としたまま、ジョミーはブルーの脇に顔を埋めて、返事もなく再び眠りへと引き込まれていった。
ジョミーの口元から漏れる温かな吐息がブルーの頬をくすぐる。それにいたずら心までくすぐられ、ブルーはジョミーの頬に手を添えて半開きの唇の端に口付けた。
「ジョミー」
ぼくがいる。ぼくが守る。君が泣き、心に嵐が吹き荒れても、ぼくはきみのかさになって君を守るよ。
「ジョミー」
もう一度名を呼び、額を合わせる。
ジョミーが言いたかったことを夢の中で聴かなければならない。
さて、どんな言葉で怒るのかな。
ブルーは頬を緩めながら瞳を閉じてジョミーの思念へ潜り込んだ。