「ああ。それはジョミーだってわかっているはずだ、ゼル。すべて、私から伝えておく」
事務的なブルーの言葉が細かく分断されて聞こえてきた。
ソルジャーが、私、って言ってる……。
自分に関することより、その方がジョミーの耳についた。
その内に、下がれ、とブルーは命令口調で言葉を終えた。
「しかし、ソルジャー・ブルー」
「エラ、少し疲れてしまったんだ。またにしてくれ」
さらに食い下がる長老たちを、その一言で一蹴する。
背中に文句を貼り付けて、長老たちが一礼をして去っていく。
彼らが見えなくなった途端、ジョミーの口から笑いが漏れた。ソルジャーの嘘つき。
「……聞こえているよ、ジョミー」
溜め息混じりにブルーがジョミーを振り返った。
笑いを堪えずにいそいそと物陰からブルーの傍へと歩み寄る。
「まったく、君に関することばかりだというのに」
溜め息混じりにブルーは軽く胸を開いた。癒しておくれ、と言わんばかりのその行動にジョミーは素直にそこへ身体を収める。
なぜかいつでもふかふかのベッドに腰を落とすと、その身体がブルーの細い腕で包まれた。
「ちゃんと聞いていたかい?」
「うん。まあ」
まあ、ってなんだい。ブルーは苦く笑ってジョミーの肩に顎を乗せた。嘘だと思ったけれど本当に疲れているのかもしれない。不安になって、ジョミーはブルーの背中を抱きしめた。
「ジョミー?」
「……ごめん、ソルジャー」
しおらしく言ったはずなのに、ブルーは笑った。
「君が頑張っているのを知っているから、いいんだよ。ジョミー」
小さな子どもへするように頭を撫でられる。
「何の問題もなく、全てが上手くいくなんてことは希だよ」
僕だってそうだ、とブルーは付け加えて、指先でジョミーの髪を弄んだ。クセのある金色の毛先を指へ絡み付け、解き放つ。少し引っ張られて痛かった。
「ソルジャーも?」
「まあ、君のように癇癪で物を壊したりはしなかったけれどね」
ゆっくりと抱き合っていた身体が離れていく。金髪の絡んだブルーの指を挟んで二人の視線が交差した。
「痛いよ、ソルジャー」
ブルーは無言でその金髪を指から解いた。そして巻き毛のようになった毛先を取り、ブルーは唇を寄せる。
「そ、ソルジャー」
慌てて声を出すと、ブルーの赤い瞳がジョミーを見上げた。
「君が好きだよ、ジョミー」
「……え?」
あまりに直接的な言葉にジョミーは思わず問い返す。
顔をあげたブルーは余裕の表情で、慌てるジョミーを見つめていた。
「ジョミー、君が好きだよ」
言葉と共に、握られたままの一房だけを繋ぎとしてブルーはジョミーを引っ張った。
痛みに目が潤む。その目の前にブルーはいた。
「好きだよ」
そして今度は二人の唇が重なった。ただぐっと触れるだけのキスだった。
そして全てが開放された。髪も唇も身体も。
ベッドの上に座り込んだ二人が見つめあう。ジョミーは困惑の、ブルーは懇願の瞳をしていた。
「……僕も、ブルーが好きだよ」
それが欲しかったんだよとばかりにブルーはジョミーの頬へキスをした。
手の上なら尊敬のキス。
額の上なら友情のキス。
頬の上なら満足感のキス。
唇の上なら愛情のキス。
閉じた目の上なら憧憬のキス。
掌の上なら懇願のキス。
腕と首なら欲望のキス。
さてそのほかは、みな狂気の沙汰。
―「接吻」―Franz Grillparzer