浅い眠りからゆらゆらと意識が身体に宿り、戻りきらないうちに眸を薄く開く。室内を満たした煌々とした光が瞳孔を貫く。
「っ……」
思わず開きかけた眸を閉じ、掌を顔に翳して光を遮ると再び静かに眸を開く。
深い眠りへ落ちないために明かりを灯したままの室内。ジョミーはそこでシーツもかけず、ただベッドに横たわっていた。人類統合軍との戦闘はいつ再開されるとも知れない状況で、意識を完全に眠りへと沈めることはできなかった。ジョミーにとって眠りは今や義務でしかない。だが、浅い眠りはジョミーを否応なく夢の世界へと引きずり込んだ。
「また、昔の夢か……」
呟き、ジョミーはぼんやりと掌の陰から光を放つシーリングを見つめた。翳した掌が紅く光に透け、肉体を形作る骨や血管の走る様が見留められた。
眸を閉じ、深く息を吐き出す。そして新緑色の双眸を開くと、過去の夢に乱されていた心がすっと静まった。これからまたジョミーには「ソルジャー・シン」としての仕事が待っている。鋭い瞳でジョミーは空を睨みつけ、身体を起こした。
カタン、と足もとから床へ何かが転げ落ちる。なんだ? ジョミーはベッドの縁に腰掛け、上半身を伸ばしてそれを手に取った。装飾の類は一切ない簡素な箱だった。箱へ思念を通わせてみるが悪意の類は感じられない。むしろ、このシャングリラには似つかわしくない華やかな感情が箱の内側からあふれ出している。ジョミーは訝しがりながらその箱を開けた。その風圧で内側に挟まれていたカードが空に舞った。
「これ、は……」
わずかに狼狽えた声をあげた。
ジョミーの眸が捉えたのは、土のような濃茶の物体。緩やかな曲線を描き、甘い香りを放つそれは、明らかに子どもの好むチョコレートだ。ジョミーはチョコレートの入った箱を手に腰をあげ、舞い落ちたカードを拾い上げた。
箱と同じく飾り気のないカード。そこには「For Petty Jomy――へなちょこジョミーへ」と筆跡の異なる文字が並んでいた。
「あ……っは」
思わず笑いそうになり、喉が詰まった。笑い方を忘れたように幾度か咳き込む。眸に涙が滲んだ。
その眸でデスクの時計を確認する。二月十五日、午前二時。そうか、とジョミーは納得して、先ほどまで漂っていた過去の夢を思い起こした。
カリナやニナ、ルリたちが幼い身で長老やシャングリラのブリッジクルーにチョコレートをあげようとしていた思い出。ニナたちにつき合わされ、チョコレートで腹を満たさせられた自分と、それを笑ったブルー。現状とは比較にならないほど甘ったるいバレンタイン。
ジョミーは手元の箱をぎゅっと握り締めた。紙でできた箱にぎゅうと皺が寄る。
夢の合間にいた幼いカリナとユウイ、彼らはもういない。だが、彼らの作った明るい風は今でもシャングリラのどこからか甘い香りを漂わせている。
「彼らに、お礼をしなくてはいけないのかな」
引きつった頬でジョミーは笑った。