「ほら」
ジョミーを引っ張り込んだ木陰でブルーは掌を広げた。そこからジョミーの掌へぽろぽろと様々な形のモノが零れ落ち、葉の隙間から差し込む陽光にチラチラと不自然な陰を作り出す。
「これ、は?」
思わずジョミーは問い返す。いま自分の掌にあるのは、丸みを帯びたガラスの破片、割れた貝殻、鈍く煌めく岩石、日焼けしたレースのリボン、そして地球に似た青いガラス玉。
「ぼくの、たからもの」
そう言いながらブルーはジョミーの顔を覗き込み、わずかに微笑んだ。幸せや悲しみとは違う、どこか切ない笑みにジョミーには見えた。
それにどこか自分に似たものを感じ、思わずその頬に手を伸ばす。ブルーは表情を変えぬまま、それを受け入れた。
「……」
「…………」
双方に無言のまま視線を交わす。ジョミーの掌がブルーの柔らかな曲線を描く頬を包み込み、親指が肌を引きつらせるように唇の端を撫でる。
それに反するかのように、にわかにブルーが口を開き無花果のように赤い口腔が音をはじき出す。
「ジョミー。ぼくのものになってよ」
ジョミーの手がブルーの唇を引きつらせたまま硬直する。なにも考えられなくなるのが自分自身でも感じられた。
それを見越し、さらにすりこむようにブルーは同じ言葉を繰り返す。
「ぼくのものになってよ、ジョミー」
「そ、れは。どうい……う」
やっとのことで返したジョミーの言葉を拒否するようにブルーは腕を伸ばした。それはジョミーの首へゆったりと絡み付きやわらかくぎゅうと抱き締め、引き寄せる。
「ぼく、ジョミーがほしい」
ほ、しい……? やはりジョミーが繰り返すとブルーはうんと頷いた。細く骨張った顎がジョミーの肩を突く。
「蜂蜜色の髪、若葉みたいな緑の瞳、ぼくはすきだよ。笑ったらきっと向日葵みたいだ。でも今は泣きそうだから……」
だから、とブルーは言い澱む。もじもじと子どものように身体を竦ませ、ただジョミーの首に回した腕に力を籠めた。
「だから、なに?」
極めて淡白にジョミーは冷たく言葉を返した。ジョミーを抱きしめるブルーは、ジョミーの知る彼ではない。そのことが酷くジョミーの心を冷静にさせた。目の前にいるのは三世紀を生きたミュウの長ではない。あのトォニィたちと同じ、子どもだ。
「ぼく、は……ただ」
それでも幼いブルーはジョミーを抱く腕を緩めようとはしない。顔も見たくないというように、ジョミーの肩に顔を埋めて続きの言葉を探す。はあはあと僅かに興奮した荒い吐息がジョミーの脇を掠める。
「ぼくはただ、ジョミーを大切にしたいだけだよ。ほんとはこのガラス玉みたいに磨いて、ハンカチに包んで、ポケットに入れて握り締めてたい」
でも、それは無理だから……。ブルーは続ける。
「だからジョミーをぼくにちょうだい。ぼくのものになってよ、ジョミー。そしたらいっぱい、笑わせてあげる、ぜったい。約束するから」
横暴だ。素直にそう感じた。
だがジョミーは視線を傍らに落とし、自らの掌に落ちたガラス玉を見つめた。
小さな傷が目立つ、青いガラス玉。あの、ジョミーの知るブルーが憧れていた地球によく似たガラス玉はそれでも綺麗に磨かれ、鈍い光を含んでいる。その光はどこか懐かしく温かな想いをジョミーに抱かせた。
「……い、いよ……」
零れるようにジョミーはそう小さく呟いた。
咄嗟に二つの身体が離れ、ジョミーは自身の唇を片手で塞いだ。同時に真円を描く瞳がそれを見上げる。
「……ホン、ト?」
視線から逃げるように顔を逸らし、ジョミーは口を噤んだ。その両の腕に手が掛かる。
「ねえ。いいって、言ったよね?」
「だめだ。ぼくは……」
「言ったよね?」
ジョミーの言葉を遮って追い討ちが掛けられる。それを振り払うようにジョミーは強引に立ち上がった。
「だめだ。ぼくは、ソルジャーなんだ……!」
自分へ思い込ませるかの如く怒鳴る。そして座り込んだままのブルーを視界へ入れないまま踵を返し、全速力で駆けた。
「……ジョミー!」
背後でジョミーの名を呼ぶ声が啼いた。