ノルディーに収容されたジョミーは床に腰を下ろし、両手両足を投げ出した。
ミュウの母艦シャングリラのあらゆる部分が振動し、軋み声をあげていた。
ワープするつもりなのか。そう思うと同時にジョミーの身体も内側から振動しはじめた。深く息をつく。その息を吐き出す頃にはワープが完了していた。
「終わっ、たか?」
ぼんやりとした気分で問うと、医師のノルディーは慣れているのか元気そうにジョミーへと笑いかけた。
「ああ。無事に逃げ切れたようだな」
そして床に膝をついていたノルディーは腕に抱えた彼をジョミーに見せ付けるように言った。
「ほら、こっちの坊主も大丈夫そうだ」
確かに無事な様子にジョミーはもう一度息を吐きだした。
だが安心と同時に自分の無茶を省みる。そう、連れてきてしまった。嫌がっていた彼を無理やりに。
ジョミーのこめかみを冷たくなった汗が伝い落ちた。
「彼を、お願いします」
ジョミーはゆっくりと腰をあげた。ノルディーも立ち上がる。
「任されよう。お前もちゃんと休め」
はいはい、とジョミーはわずか不安定な身体を支えながら笑い返し、ノルディーに背を向けた。
ソルジャー・ブルーのところへ行かなければと何故だか思っていた。義務感か、ジョミー自身の意思か、どちらなのかはわからない。
「おい、ジョミー」
忘れてた、と小さく呟いたノルディーをジョミーは足を止めて振り返る。
「この坊主の名前は?」
「……シロエ、セキ・レイ・シロエ」
名を告げれば、グッと現実がジョミーを押し潰さんと力を増した。
「そうか」
そんなジョミーの様子を知ってか知らずか、ノルディーはいつもの明るさで言葉を続けた。
「後で医務室(こっち)に来るんだぞ。シロエが待ってる。それにお前の身体も診ないとな」
「…………」
言い切って、ノルディーはシロエを抱えたまま人通りの少ない広い通路を大股に歩いていってしまう。
そして、先にこの場を立ち去ろうとしたはずのジョミーが残された。
連れてきてしまった……。
ジョミーはのろのろとソルジャー・ブルーの部屋へと足を進めはじめた。