「ソルジャー」
ジョミーがおどおどと声をかけると、それを待っていたかのようにブルーは薄く目を開けた。
その赤い瞳がジョミーを捉え、優しく歪む。
「おかえり、ジョミー」
身体を起こそうとしたブルーをジョミーは静止した。
そして代わりにジョミーがベッドの端に腰掛け。ブルーを覗き込む。
「遅くなって、ごめんなさい」
「それはぼくに言うことではないよ、ジョミー」
わかっているよね、とシーツの隙間から伸ばされた手がジョミーの頭を撫でた。
その細い手首をジョミーは思わず掴み、祈るように自らの額に押し付ける。
もう、どうしていいのかわからなくなっていた。
「……混乱しているね」
穏やかさのない、静かな声でブルーはそう言った。
「ミュウだと、思う子どもを連れてきました。無理やり……っ」
言い切らないうちに目から涙が零れた。泣きたいわけではなかったが、どうしても涙が溢れてしまう。
ジョミーはブルーの腕を放し、腕や手の甲で涙を拭った。
するとブルーはそれを止めるように、その掌でジョミーの瞳を覆う。
「君はあの子の『帰る場所』を奪った」
「はい」
「今や、君のように一旦帰すということもできない。その責任を心に刻め、ソルジャー・シン」
「……はい」
ブルーの掌の合間を縫って、涙がボトボトと音を立ててシーツへと落ちた。
「そしてこれは、ジョミー、君に」
そして一転、ブルーは優しく穏やかな声色でジョミーに語りかけ、ブルーと同じように瞳を赤く染めたジョミーの頭をブルーは引き寄せ、両腕で抱きしめた。
「ぼくは君の『成人検査を無事に通過した可能性』を奪って、ここへ連れてきた。そして、さらに君には重圧を押し付けた」
「そんなっ」
慌てて上げようとしたジョミーの顔をブルーは強く抱きしめ、それを許さず言葉を続ける。
「ぼくには君に対する責任がある。それらは重い。だが、それがソルジャーなんだよ。皆を守るための力の一つだ」
そのソルジャーの力をブルーから受け継がなければならないのだ。ジョミーはブルーの腕に包まれ、一つ大きく頷いた。
「君はよく頑張っている。しかし、自分の責任は自分で果たさなければ」
そして、さあ、とブルーはジョミーの頭から腕を引いた。
「セキ・レイ・シロエが目覚めたようだ。行けるね、ソルジャー・シン」
「はい」
答えてジョミーはぐいと腕で濡れた目を拭った。
ブルーが柔らかく笑う。
「行ってきます、ソルジャー・ブルー」
ベッドから立ち上がり、そう言ってブルーへ背を向けた。ブルーの紫とは対照的な赤いマントが勇ましく翻る。
「……ジョミー、手を焼いたらここへ連れて来ると良い。やんちゃな子どもの扱いには慣れているんだ」
ジョミーは振り返らずに、絶対つれてくるもんかと決心した。