ACT.02

「ソルジャー」

 ジョミーがおどおどと声をかけると、それを待っていたかのようにブルーは薄く目を開けた。
 その赤い瞳がジョミーを捉え、優しく歪む。

「おかえり、ジョミー」

 身体を起こそうとしたブルーをジョミーは静止した。
 そして代わりにジョミーがベッドの端に腰掛け。ブルーを覗き込む。

「遅くなって、ごめんなさい」

「それはぼくに言うことではないよ、ジョミー」

 わかっているよね、とシーツの隙間から伸ばされた手がジョミーの頭を撫でた。
 その細い手首をジョミーは思わず掴み、祈るように自らの額に押し付ける。
 もう、どうしていいのかわからなくなっていた。

「……混乱しているね」

 穏やかさのない、静かな声でブルーはそう言った。

「ミュウだと、思う子どもを連れてきました。無理やり……っ」

 言い切らないうちに目から涙が零れた。泣きたいわけではなかったが、どうしても涙が溢れてしまう。
 ジョミーはブルーの腕を放し、腕や手の甲で涙を拭った。
 するとブルーはそれを止めるように、その掌でジョミーの瞳を覆う。

「君はあの子の『帰る場所』を奪った」

「はい」

「今や、君のように一旦帰すということもできない。その責任を心に刻め、ソルジャー・シン」

「……はい」

 ブルーの掌の合間を縫って、涙がボトボトと音を立ててシーツへと落ちた。

「そしてこれは、ジョミー、君に」

 そして一転、ブルーは優しく穏やかな声色でジョミーに語りかけ、ブルーと同じように瞳を赤く染めたジョミーの頭をブルーは引き寄せ、両腕で抱きしめた。

「ぼくは君の『成人検査を無事に通過した可能性』を奪って、ここへ連れてきた。そして、さらに君には重圧を押し付けた」

「そんなっ」

 慌てて上げようとしたジョミーの顔をブルーは強く抱きしめ、それを許さず言葉を続ける。

「ぼくには君に対する責任がある。それらは重い。だが、それがソルジャーなんだよ。皆を守るための力の一つだ」

 そのソルジャーの力をブルーから受け継がなければならないのだ。ジョミーはブルーの腕に包まれ、一つ大きく頷いた。

「君はよく頑張っている。しかし、自分の責任は自分で果たさなければ」

 そして、さあ、とブルーはジョミーの頭から腕を引いた。

「セキ・レイ・シロエが目覚めたようだ。行けるね、ソルジャー・シン」

「はい」

 答えてジョミーはぐいと腕で濡れた目を拭った。
 ブルーが柔らかく笑う。

「行ってきます、ソルジャー・ブルー」

 ベッドから立ち上がり、そう言ってブルーへ背を向けた。ブルーの紫とは対照的な赤いマントが勇ましく翻る。

「……ジョミー、手を焼いたらここへ連れて来ると良い。やんちゃな子どもの扱いには慣れているんだ」

 ジョミーは振り返らずに、絶対つれてくるもんかと決心した。

written by ヤマヤコウコ