ジョミーが青の間を出ると、医務室へ向かうにつれその騒がしさに足を速めずにはいられなかった。
人々は騒がしく動き回り、ジョミーがいるというのに目もくれずに、あっちだ、こっちだ、と人が通路を走り回っている。
その中心、医務室から看護師が一人駆け出してジョミーの脇を通り抜けていった。ジョミーは焦って医務室へと駆け込む。
「ノルディー!」
ぐるりと室内を見渡すが当該の人物は見当たらない。だが踵を返し、通路へ戻ろうとするジョミーを聞きなれた思念波が止めた。
「彼は奥の治療室ですよ、ジョミー」
リオの思念波にジョミーは焦りばかりの自分を落ち着ける。こんなだからダメなんだ、とジョミーはゆっくりと息をついて、リオの横たわるベッドへと近づいた。
「リオ、なにがあったんだ?」
訊ねるとリオは優しい表情をした顔の眉根を寄せた。
「男の子がひとり、逃げ出したようです。看護士を思念波でつきとばして、彼女はまだ意識を取り戻しません」
「っ……!」
ジョミーは驚きに声を失った。握り締めた拳が震える。
自分が対峙し、やっと押えつけた程の思念波だ。それをそのまま受けたのなら……。最悪の結果が頭を過ぎる。「いいえ、彼女は無事です」
リオの手が引きとめるように力んだ腕に触れた。
「身体を強く打ってはいるようですが、大事にはなっていないようです。奥で念のためにとノルディーが検査を」
「そう、か……」
言葉少なに呟くジョミーにリオは、大丈夫ですよ、と微笑む。その態度には余裕すら感じられる。もしかすると、ジョミーの保護すら任された彼には慣れた出来事なのかもしれない。
「リオ、シロエは……その子はどこへ?」
「行き先はわかりませんが酷く動揺していました。近くならば思念を捕まえることも容易いでしょう」
そう言ったリオはまた笑う。それにはジョミーも苦笑いを返すしかない。
理由は明確だ。ジョミーには未だ思念を故意に探ることが難しい。
「誰かに頼むことにするよ。それにもう誰かが見つけているかもしれない」
「ジョミー。子どもは子ども同士、ですよ」
それはぼくが子どもだと言いたいのかと、咄嗟に言い返そうとしてジョミーは黙る。リオが言いたいのはそうではないと気付いた。
子どもは子ども同士、カリナたちに頼めば良い。
「ありがとう、リオ」
「あの子達はかくれんぼも得意です。きっと見つけてくれますよ」
怪我のない腕で手を振るリオに手を振り返し、ジョミーは医務室を駆け出した。