ACT.06

「なにか、感じるかい?」

 手を繋いでいるの顔を上から覗き込む。
 だが、シロエを探すということより遊びの一環のような気分だったのか、カリナは言われて小さく声を上げた。

「あっ、ちょっと待ってね」

 そう言って足を止め、瞳を閉じる。ジョミーとは反対側でカリナの手をとっていたヨギやマヒルもそれに倣う。
 ジョミーはじっとその様子を見下ろして待つしかない。
 そしてカリナの瞳が開く。残念そうに瞬きをしてカリナは首を振った。

「見つからないわ、ジョミー」

「ジョミー、見つからないよ」

「見つからないよ、ジョミー」

 カリナに続いてヨギとマヒルが繰り返し、赤いマント越しにジョミーの足へとしがみついた。

「そうか……、ありがとう」

 子どもなりに悔しさがあるのだろう、なるべく残念な気持ちを表さないよう明るい声でジョミーは言った。
 そして一人ひとりの頭を撫でてやる。

「ごめん、もう少し付き合ってくれ」

「大丈夫よ、ちゃんと見つけてあげなきゃ」

 ね!、と逆にジョミーを励ますようにカリナが笑う。
 その笑顔に緊張しきりだったジョミーの顔が緩む。そうだ、ここの子どもたちのように楽しい時間が過ごせるようにとシロエをつれてきたはずなのだ。早く見つけて、ちゃんとここが安全だということを教えてあげなければならない。
 逃げ続けている今、彼がどんな想いをしているのか。この船に連れてこられたばかりのジョミーとその姿が重なる。

「ソルジャー!」

 僅かにうつむくジョミーへ遠くの通路から声がかけられる。
 ユウイとニナをつれたシドだ。余程あちらへこちらへと連れ回されたのか、覚束ない足取りでジョミーのもとへと駆けてくる。
 だがそのシドを追い越して、ニナがジョミーへと駆けた。

「ジョミー、ユウイがね……」

 飛び掛るように抱きついて、ニナは早口に巻きたてる。
 そのニナに一歩遅れたシドは、息も荒く膝に手をついてジョミーを見上げた。

「ユウイが、青の間の方に子どもの思念を感じると」

「青の間に?」

 ジョミーが驚いている間に、シドは、はあ、と熱い息を吐き出し身体を立て直す。そして額の汗を拭い、こっちです、とジョミーを促した。
 足早にジョミーはそれに従う。

「私にはどうも、わからないんですが」

 複雑そうに眉を寄せてシドは苦く笑った。だが、ジョミーにはもっと無理なので苦く笑い合うしかない。
 顔を正面に戻すとジョミーの目にユウイの姿が見えた。
 格子のように左右へ路地の延びたメインストリートの突き当たりにユウイはいた。思念を頑張って感じようとしているのか、青の間へと続く薄暗い通路を見つめながら両足をしっかりと生やして立っている。
 その瞳がジョミーを向く。そしてしっかりと頷いた。

「ユウイ!」

 ジョミーは名を呼び、駆け寄って小さな両肩に手を置く。
 驚く様子も見せず、真実を問う前にユウイはもう一度大きく頷いた。

「ジョミー。この辺りいっぱいに怖いって気持ちがあって、それが青の間に続いてるよ」

 ユウイが落ち着いた様子で言うと、本当だ、そうだ、とカリナたちも次々と声をあげた。
 先ほど出てきたときには何もなかった。ジョミーが医務室や子どもたちを連れてきているうちに、シロエは彷徨い。その結果、青の間へたどり着いたのだろうか。
 困ったって連れてくるもんかと決めたはずなのに、とジョミーは溜め息を吐いて通路の先を見つめた。

「シド」

 呼ぶと、わかってますよとばかりにシドはユウイの手をとった。カリナはヨギと、ニナはマヒルの手をそれぞれとる。

「気をつけて」

「休憩時間に、ごめん。他の人たちも……」

 いいえ、とシドは首を振って子どもたちを促す。

「ジョミー、また遊んでね」

 笑うニナに手を振り替えし、ジョミーはシドと子どもたちの背を見送った。
 さて、どうしよう。
 悩んだところで、シロエが青の間にいるだろうことは間違いないだろう。からかわれる結果は変わらない。
 とりあえず、行くかな。
 ジョミーは青の間へと足を進めた。
 でも、それよりシロエに伝えることがある。
 その足取りは次第に速まる。
 ここで、シロエは幸せになれるって。
 そしてジョミーは駆け出した。

written by ヤマヤコウコ