くるりと渦を巻いたような通路を、シロエはその人と歩いていった。
周りは暗く、所どころに青白い灯りが灯るだけ。そろそろと下を覗き込めば、光の揺らめきでそこには水があるのがわかった。
「おもしろいかい?」
「……」
優しい問いかけにシロエは無言で小さく頷いた。
「こんなの、見たことない……よ」
「そうかい」
白兎のような赤い瞳がアーチを描く。シロエは繋いだ手を握り締めた。
「ここは、どこ?」
「……」
今度はその人が無言になった。その代わりに床に膝をついて、シロエと赤い瞳が正面から向かい合う。
握り締めていた手が、柔らかく握り返された。
「君が、これから暮らすところだよ。シロエ」
瞳に涙が滲む。彷徨っていたときからわかっていた。もう帰れない、ママに、パパに会えないことはなんとなくわかっていた。
「シロエ」
頭が撫でられ、片腕でぎゅっと抱きしめられる。鼻がツンと痛み、喉がしゃくり上げる。その度に顎がその人の肩にぶつかった。
身体に挟まれた繋いだ手を握り締める。
「ピーターパンが、言ってた……」
「ピーターパン?」
その人が問い返したとき、慌しい足音が近づいてきた。
そして涙の溜まった瞳に、鮮やな赤い色が滲んだ。
「ソルジャー!」
どこから走ってきたのだろう。息を切らし、揺らめくマントと同じように顔が赤くなっていた。
「……ぴーたーぱん」
シロエが呟くと、抱きしめられていた身体が離される。
「シロエ……」
ピーターパンは額に眉を寄せて、まるで今にも泣き出しそうな顔をしていた。
シロエは小さく鼻を啜ってピーターパンを見上げた。しばし、ピーターパンと瞳を交わす。
「ソルジャー・ブルー」
ピーターパンの視線がシロエから、シロエの手を握る人へと移った。シロエも、シロエの一歩後ろに立ったその人を見上げた。
「まったく、君には手を焼かされる」
「すみません」
「お説教は後だ。……シロエ」
上から手が降ってきて、シロエの頭をなでた。先ほどと同じ、柔らかく包み込む感覚にシロエの涙が自然と止まる。
「ソルジャー、ブルー?」
ピーターパンの呼んだ、その人の名前らしきものを繰り返す。すると、その人は微笑んだ。
「ブルーだよ。よろしく、シロエ。それから彼は、ピーターパンじゃなくてジョミーだ」
ジョミー……。口の中で反復しながら、ピーターパン、ジョミーを見上げる。
「シロエ、ごめん。無理やり連れて来て」
力を落としたようにジョミーは跪き、まっすぐにシロエを見た。
「でも、ここでなら、君はきっと幸せになれるから。ぼくが、するから!」
肩にブルーの手が置かれる。ちらりと赤い瞳を見上げると、やはり緩くアーチを描いていた。
「ジョミーはソルジャーだ。きっと幸せにしてくれるよ」
シロエは両手で不器用に自らの涙を拭う。
そして赤い瞳と赤いマントを見比べ、うん、としっかり頷いた。