ACT.06

「地球の男を捕まえたって!」

 興奮気味に話す声が格納庫の広い空間に響いていた。いつもなら鼓膜を通すだけの会話だ。だが、シロエは珍しくそれを気に留め、額の汗をぐいと作業着の袖で拭った。

「ナスカへ降りようとしたところをソルジャー・シンが捕まえたそうだ」

 シロエは会話を聞き漏らさぬようにしながらも、最新型ギブリの腹部下で黙々と手を動かした。おヤエさんによって改造された最新型のギブリはかなり複雑な造りをしており、さすがシロエでも少し気を抜けば回路の接続部がわからなくなりかねない代物だった。おかげで管理と整備の殆どをシロエが請け負う破目になっている。そして地球の男が捕まったとの話が事実であり、その裏で人類統合軍そしてグランド・マザーの作為が動いているとなればシロエが今扱っている機体の活躍も近いだろう。シロエはぐっと奥歯に力を籠め、手元の回路をきっちりと繋いだ。

「地上から移送されたって聞いたが」

「下である程度の調査して、一時間くらい前に戻ってきたギブリで連れてきたってよ。いまは記憶を詳しく調べてるって」

 へえ、といくつかの溜め息が聞こえた。いつの間にか、情報主の周囲に輪ができているようだった。
 仕事しろよ。シロエは悪態をつきながら、背にした可動式パネルを次の回路の場所へ移動させた。

「ついこの間も地球のシャトルを捕まえたばかりじゃない。どうなってるの?」

「俺たちがナスカにいることが、知られてる、とか……」

 不安気な言葉がぽつりぽつりと続き、やがては皆が黙った。おそらく少し前に起きた、ソルジャー・シン――ジョミーによる人類統合軍シャトル爆破、そしてそのシャトルをそのまま帰還させた件を思い起こしているのだろう。
 あのシャトルに乗っていたのは、サム・ヒューストンだったな……。
 シロエもそのときのことを思い出し、手を止めた。
 あのとき、地球側の工学に対し造詣が深いからと呼び出されて、乗務員のことを調べ上げたのはシロエだった。
 ジョミーとアタラクシアでの旧友であったことはシロエにとっても驚愕の事実であり、ブリッジから駆けつけて会わせろと言うジョミーを止め切れずにそのドアを開けたのもシロエだ。

「……」

 シロエは空に止まっていた手を脇へ潜り込ませ、小さな情報端末を取り出した。
 シャングリラのデータでであればそのほとんどが入手できるはずだ。いま、記憶を調べているということはそのデータも起動中だろう、ならばハッキングするのは容易い。
 そこまで考えて、シロエはギブリの影で明るく発光した情報端末の画面を自分の胸へと押し付けた。
 なにをしようとしているんだ、ぼくは。
 深く息を吸いこみ、そして吐き出す。だが、わずかに興奮した胸は落ち着く様子をみせない。ドクリドクリと速い鼓動で胸上の端末が上下した。シロエは喉を鳴らして唾を飲み込み、端末をゆっくりと持ち上げた。

 
written by ヤマヤコウコ