「ジョミー」
捕虜を抑留した部屋をでると待ち構えていたように声がかけられた。
「……シロエ」
壁に背を預け腕を組んだシロエは瞳を閉じたまま低い声で言った。
「ジョミー、やっとぼくがあなたの役に立てる」
「君は十分に役に立ってくれているさ」
ジョミーのその返答にシロエは意図は通じているんだろうといった態度で濃いプラム色の瞳を開き、上目遣いにジョミーを見た。
気付かなかったふりはさせてくれないつもりらしい。
小さくため息をついてジョミーは口を開いた。
「……知り合いかい」
「ええ」
だから、と続けようとするシロエの言葉をジョミーは遮る。
「君は格納庫へ戻れ。自分の部屋でもいい、フィシスのところでもいい。ここへは近寄るな」
「なぜ」
「わからない君じゃないだろう」
そのジョミーの言葉にシロエはぐっと言葉を詰まらせた。
シャングリラに突如現れ、そして成人検査を通過したミュウであるシロエを艦内の者はあまり良くは思っていなかった。
それは10年以上経った今でも奥底に眠っている。長老たちはなおさらだった。
だからこそおヤエさんが認める能力があるにもかかわらずブリッジからは離され、機関部の所属を通している。
加えて捕虜と知り合いとなれば、情報を売ったと言われるのは必至のことだろう。
「そんなの。誰が何を言おうと関係ないね。それより地球の場所を知るほうが大切だ」
シロエは続ける。
「あいつは……、キース・アニアンは自分がぼくを殺したと思っているんだ。ぼくなら、ヤツの隙を作れる……!」
「戻れ、シロエ」
ジョミーは静止させていた脚を再び動かし、シロエの前を通り過ぎた。
これ以上の言葉を聞く気はない、それを示す行動だったがシロエは気付きながらも興奮気味に壁を離れジョミーの背を追ってきた。
彼らしくない。それだけの繋がりがシロエとあの捕虜――キース・アニアンとの間にはあるのだろう。その予想はシロエが彼への接触を図るという選択肢をジョミーからさらに遠ざけた。
「ジョミー!」
「君はもうぼくらの仲間だ。それに、そんな風に驚かせて君自身はどうなる」
「……ぼく自身?」
バカにしたようにシロエは鼻を鳴らした。
その態度にジョミーは再び立ち止まり、シロエを振り返る。
「幽霊が現れたとそんな風に驚かせて、君だって傷つく。それほどまでに因縁のある相手ならなおさらだ」
「そんなの……!」
「自身で気付かなくとも、必ずしこりは残る。行くんだシロエ。君への無用な疑惑を他の者へ与えたくない」
行け、と再度ジョミーは言い、シロエの戻るべき方向を指差した。
シロエはジョミーのその厳しい態度に一瞬驚き、顔を落とすとそして深く息を吸った。興奮しやすい性質なのだと、シロエ自身も自覚しているのだろう。やがて上げた顔は落ち着きを取り戻していた。それにジョミーもわずかに頬を緩ませる。
「わかりました。戻ります、ソルジャー・シン」
「手を借りたいときにはちゃんと呼ぶよ、シロエ」
待っています。シロエは苦笑を返した。
「君の事は頼りにしてる」
「知ってますよ。そんなの」
シロエは表情も変えずにそう言い、それじゃあ、とジョミーに背を向けた。